2024年2月12日

雪国に閉じ込められ、身を費やし、いくばくかの賃金を得ている。

会社勤めをしてみて何ヶ月が経っただろう。「やってられない」この感想に尽きる。

アルバイトであれば、その時間内、時給の発生する時間内、資本に身を捧げれば済む話であるが、サラリーマンはその肩書きに縛られ、責任を負わされ、休暇も、出勤日のための「一時停止」である。休日が「休養」だとは何と哀れなことか。社畜という言葉を我ごとに、実感を持って認識できるようになったこと、これは未来から振り返った時に成果なのか汚点なのか。

休日は何もない、何もすることがない、虚無を持て余した人間が始める何か、それがその人間の本性の発露になるわけで、私はこの何ヶ月間か、たまの休日に些少な我に返りながらも、明日の労働という深い微睡みに追われ、なけなしの私を投擲する毎日である。

確かにこれは私が望んだこと、選んだことだ。思想的選択によって、私は私を放棄してみようと昨年決めていたのだ。

しかしこうも身を窶し、やってられない、興味の持てない労働に明け暮れていると、こう沸々と溜まってくるものを感じる。会社という組織は私にとって女王様にはなり得ない、低級な指示しか与えてこない存在だ。

美術や映画、音楽や小説...、美術活動で摩耗した私の感性は、この絶え間ない灰褐色の歯車生活のお陰で、色を取り戻しつつある。

 

 

2023年6月2日(金)

雨の中、ネズミの轢死体を見た。ピンク色の潰れた舌と尻尾が濡れた地面を背に映えている。
左下奥歯を抜きに行く。まずは近場の歯科医院で歯をクリーニングする。その後、紹介状を貰って5駅離れたメガ病院へと向かう。
総合受付に紹介状を提出する。受付の男が用紙を差し向け、会話スピード×3倍で「コチラに名前と住所と電話番号を記入してください。そちらの角に机とペンがあるので。」と喋る。脳内で通常速度に変換して、ようやく言っていることが理解できる。
2階の歯科口腔外科へとエレベーターに乗って、向かう。問診票を提出、少し待つと、「レントゲンを撮りたいので1階へ行ってください」と言われる。1階の放射線科へとエレベーターに乗って、向かう。
放射線を浴びて、2階に戻り、待つ。呼び出されて抜歯の意志を伝えると「明日消毒に来れますか」と聞かれる「明日から自動車の免許合宿に行くので行けないです」「じゃあ一週間後に消毒しましょうか?」「免許合宿は二週間あります」「抜歯後一週間以上空けると良くないんですよね」何も言えない「ちょっと見てみますね」口を開けて歯を見られる「虫歯がヒドイですね、今に痛くなってもおかしくないです」「そうですか」「どうしましますか?」「免許合宿終わってからの17日とか…」「わかりました、では17日で。その間に痛くなるかもしれませんが、そこは理解してもらって」「はぁ」「はい、いいですよ」私は何も良くないけど、医者は私を無視してパソコン画面を見つめるので、ありがとうございました、と小さく呟いて退室する。
無駄足を踏んだ。長々と待たされて予約しただけで2000円も取られた。
報告書を歯科医院に渡してください、と封筒を渡される。紹介状と報告書が行き来しただけ。私は小間使いか、と心中で毒づく。
電車に乗って来た道を戻り、歯科医院に報告書を突きつける。「歯抜けました?」「17日にやります、自分明日から東京離れるので、消毒ができなくて、一週間以内に必要、と言われたから」苛立ちで支離滅裂な言葉しか出てこない。受付のお姉さんは「17日にやるんですね。」と冷めた目で受け流す。
家に帰る。ズボンが濡れているから、脱ぎ捨てて、鈍色のベッドの上で潰れたように横になる。

2023年6月1日(木)

無職である。なにもない日。
起床は8時くらいだろうか。布団に包まってスマホをいじる。11時頃布団から這い出て1階リビングへと向かう。母親は既に外出している。
朝飯を食べる。録画した水曜日のダウンタウンを見る。
部屋に戻って本を何ページか開いただけで、ガス会社に電話、電気/水道会社にも電話、J:COMから電話がかかってくるので、長々とした説明を聞く。
などの手続きばかりしていたら眠くなったので寝る。
17時過ぎに起きる。日記で日常を曝け出すなんて自慰行為的だと嫌悪する。書いた人を傷付けたかもしれないと苦慮する。自分のことを暴露しているようで、周りへ棘を刺して吸った養分で言葉を発している。罪悪感が、また襲ってくる。
「小寺くんの展示からは大江健三郎の自涜的主人公を思い出すことが多い」と言われたことを思い出す。自涜の涜は、穢すていう意味らしい。
寝る。

2023年5月31日(水)

6時起床。ホテルのアラームで起きる。怖い夢を見ていた。ホラー映画のような夢。内容は忘れてしまう。見たくないけど見たい、そんな夢。
酒が抜けていない。シャワーを浴びる。スッキリする。1階の朝食会場からパンと玉子サラダと牛乳とグレープフルーツジュースを貰い、北朝鮮のミサイル発射の速報を見ながら、部屋で食べる。煎茶を淹れる。飲む。
6時45分になったので、ロビーへと向かう。SさんとAさんと合流する。
Timesの駐車場へと歩く。Nさんの車に乗る。Kさんは既に乗っている。途中でOさんを拾う。Oさんがニュースを見て「衛星じゃないの?」と呟く。「衛星と称したミサイルって言ってます」とテレビの内容をそのまま伝える。「衛星もミサイルも角度が違うだけ。他の国は衛星バンバン撃ってるのに何で北朝鮮だけこんなに過敏なんだろう。」と言う。アメリカの陰謀か、加速する妄言『そもそも北朝鮮は何も撃っていない、アメリカの情報工作、敵対心を日本国民に植え付け、戦争準備を…!』が頭に浮かぶ。
今日で終わりだ。7時20分過ぎに現場到着。着替えて、昨日書けなかった日記を少し書いて、煙草を吸って、大便を放ち、向かう。
ラジオ体操あり。
労働。ネタもさほど練らず、屋上を清掃する。水浸しになったバイオランテープ、マスカー、ガムテープ。錆びついたモンキーレンチ。水の溜まったバケツ。散々探し求めていたチリトリたち。
昼飯は緑のたぬき。変なパン。最終日、ここにきて初めて麺類を食べた。この売店に来ることもない。
木で木目模型を作成して、荷物を整理して、「泣きながらネタ場の準備しなよ」とKさんに言われる。「涙でバケツの水溜めますか」と冗談を返すほど仲良くなれてはいない。労働終わりである。
握手。握手。握手。
馴染む一歩手前でそこから逃げ出す、縁を切る、孤独愛好者のくだらん悪癖を、披瀝して。
帰ってきて、母親に来月の予定を無愛想に
伝える。
2日分の日記、かいて、寝る。

2023年5月30日(火)

4時起床。昨日は早く寝たので早く起きてましう、小便をして寝直す。
5時過ぎ起床。弁当あり。
電車内でドストエフスキー罪と罰(上)』を読む。途中で寝る。ちゃんとに寝たはずなのに眠い。
ベイサイド・ステーション駅で降りる。
髪を切ったので職人たちから反応がある。
ラジオ体操なし。雨なので、各々体操をする。
労働。朝から管理側がグダグダでIさんがキレる。最近、毎朝の恒例である。ヘラヘラしてコチラ側の要求を全く聞き入れず、ソチラ側の要求ばかり押し付けてくる管理。「僕たちは機械じゃない!人間だよ」とIさんが言う。私は下っ端なので、労働機械なので、とマゾ的感傷に浸かって、キレる立場も筋合いもない、というか明日で辞める。
町田康が好きなAさんも「あぁ、イライラしてきた…!」とキレる。怒りと呆れが伝播する。
私の引継ぎ、KくんとSさんに下っ端の動き方を教える。水を汲む場所、ゴミを捨てる場所、ネタ場、材料置き場、休憩場所、その他諸々。
朝からグダグダしたせいで、午前中に肝心要のネタ練りができなくなった。口頭だけの説明では「心配」である、なんて、情を抱いてしまう。
今日は、私の送別会が開かれる。
労働終わり。17時くらい。
Nさんの車に乗って送別会場、浦安駅近くの中華屋へと向かう。この一週間は皆が惜別の言葉を投げかけてくる。
隣にはIさん、左前にはSさん、前にはAさん、というテーブル。右隣のテーブルには、Oさん、Nさん、Kさん、Anさん。
生ビールで乾杯、NさんとKさんは酒を飲まず、コーラで乾杯である。後から、SgさんとYさんとOeさんも来るだろう。
餃子が美味い。炒飯も美味い。酒や生温い言葉で気持ちがほぐれて、こんなんじゃいけない、なんて考えられないほどに。私の人生に温かいことが起こってはいけない。そんなものは作品のネタにはならない。全てにトゲトゲしくなければならない。誰とも親しくしない。温かい出来事があってもその裏を無理矢理見つけ出して、卑屈になって、世界を敵に回して、そんな風に生きていかないと、生きていかないと、
酔った。父親譲りの酒の弱さである。
Aさんが「創太はキャラがいいんだよ。どこに行ってもうまくやれる。寂しいなぁ。創太はいるだけでいいんだよ。」
Sさんが「最初はなんだコイツって思ったけど…結果助かったよ。」
Iさんが「初めの方は興味ないって顔してたもんな。だから俺が『辞めるなら早いこと辞めたほうがいいよ』と言った。けど辞めなかった。」
早く辞めようと思って打診した結果、今になったのである、がそんなことは言わない。
「Oeさんに2日連続で怒鳴られた時は、流石に辞めようと思いましたよ」
「何で怒鳴られたの?」
「カチオンって何ですか?て聞いたら『舐めてんのか!』って。」
一同笑う。
「それは不条理だわ。辞めてもしょうがない。Oeくんはそういうとこあるね。」
「あとは、Oeさんと掃除や片付けをしていたんですけど、自分が物を置いた場所が丁度Oeさんが物を置きたかった場所だったみたいで、置いた物をガッシャーンて地面に叩きつけて『舐めてんのか!』って。」
一同笑う。
外に出て煙草を吸う。YさんとAnさんと。
Anさんが「小寺さんからオススメされた小説買いました…!」と言う。若い女だからと、テキトーに最悪な理由でオススメした宇佐見りん「推し、燃ゆ」を買ったのだという。「読んだら感想言おうと思っていたらいなくなっちゃって…残念です。」「明日までに徹夜で読んできてください」と軽い冗談を放つ。LINEを交換する。「読んだら感想伝えますね。」本当に言ってくるだろうか。
餃子を食べる。LINEを交換する。炒飯を食べる。LINEを交換する。グレープフルーツサワー。煙草を吸う。グレープフルーツサワー。水を飲む。煙草を吸う。水を飲む。LINEを交換する。ゴマ団子を食う。水を飲む。水を飲む。水を飲む。水を飲む。水を飲む。
「そろそろ行きます」
浦安のビジネスホテルに泊まる。部屋に入ってVODのアダルトをつけて全裸になって鏡に映った勃起したちんこと身体を見る。この仕事をして明らかに筋肉がついた。Tシャツを腕が通りにくくなった。小指はばね指になった。
精が抜けて、でも酔いは残っていて、でも歯は磨いて、風呂は明日の朝でいいや、と、アラームを6時に設定して、寝る。

2023年5月28日(日)

何時かわからない。かけ布団がベッドからずれ落ち、寒さで起きる。布団をかけ直して再び眠りにつく。6時起床、館内一斉放送の音楽によって起こされる。味気なく記憶に残らない音楽である。7時から広場で「朝のつどい」があるため、6時半まで不貞寝する。この施設に来てから何回も遠野遥『教育』を思い出している。
6時45分、同部屋の元野球部で現経済学部の男と共に広場に向かう。7時、朝のつどい。彼と共に旗揚げ係に任命されてしまう。「国歌が終わる時に合わせて旗がてっぺんにあるようにしてください。」私は紐が絡まないように手を添えるだけ。彼が紐を下に引っ張る。日本国旗が空高く揚がる。国歌と国旗。カビ臭い歌が空間を浸して一体感のアトモスフィアを醸成する。
国歌終わり。壇上に立たされて拍手を受ける。無表情ですら無い無の表情で、人の空白、灰色の地面、を見つめる。
ラジオ体操あり。他団体の外国人が「ニッポンノカルチャーデスネ」と呟く声が聞こえる。その後、朝飯。コーヒー。人のいない喫煙所。
救急救命講習のためにアクティビティホールという名の建物へと向かう。女が隣に来て「大学生ですか?」と尋ねてくる。四角い輪郭に色白な顔と整った鼻筋、ショートボブの黒髪がクールな印象を醸しながら、太陽光を反射させたデカい目をコチラに向けてくる。「あ、社会人です。」「やっぱりそうですよね。」「そうです。あれ?社会人ですか?」「そうです。成り立てですけど。」「あ、そうなんだ。遠目で見て社会人かなぁ、と思っていました。自分も似たようなもんです。」遠目で見ていました、という謎の告白と、高校生や大学生より明らかに老けて見えますよ、という報告。「え?何歳ですか?」「27歳です。来月からですけど初めての就職で。」「なるほど。私は22歳です。新卒で。」「皆若いですよね。高校生とか大学生ばっかりで。」「ですよね。歳が近くても大学3年生とかで…。」「スタッフの人に聞いたんですけど、普段は社会人もっと多いらしいですよ。」「え、そうなんですか?」「うん、そうみたいです。」
沈黙。
「来月のNEAL?のセミナーは行くんですか?」「いや私それはもう持ってるんですよ。」「あ、そうなんですね。」「大学が教育系だったので。今回は個人的に来た感じなんですけど。」「へぇーなるほど。」
沈黙。
「職種は?」「はい?」「仕事はどういう系なんですか?」「造園業です。」「へぇ現場で?」「いや事務です。」「なるほど。知り合いに造園業やっている人いますよ。」「へぇ、そうなんですかー…」
会話の途中でアクティビティホールに到着した。颯爽と靴箱に靴を押し込み、颯爽と指定された班の場へ向かう。
消防署の署員に胸骨圧迫とAEDの使い方、人工呼吸のやり方を教わる。人形の胸をベコベコ凹ますたびに雑念は薄れていく。

ベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコベコ

ベコベコしすぎて右手小指の皮が剥けてしまった。
食堂へと向かう。真後ろで造園女が歩いている。隣の女と喋っているようだ。「…女として…できる身体で生まれたからには経験して…たいよね…」途切れ途切れに聞こえてくる言葉。
昼食はバイキング方式である。チキンナゲットを取っていると造園女が隣に並んでくる。「造園の会社はどこにあるんですか?」と無難な質問を投げかける。「太田です。」「太田?群馬ですか?」「そうです。お知り合いの造園業やられてる方は群馬ですか?」「いや違います東京ですね。自分東京からなので。」「あ、そうなんですね。」「そうです。3時間かけて来ました。鈍行で。」聞かれてもいないのに答える。「えー大変ですね。明日もお仕事ですか?」「いえ、明日は休みです。」「それなら良いですね。」平行線。
その後、講義を受け、ボランティア登録をする。来月開催されるNEALリーダーの研修の応募もこの時に済ます。
最後は閉講式。ボランティアの認定カードと修了証をもらって終わり。
教室前スクリーンに初日アイスブレイク時に撮影された集合写真が映し出されている。片手拳を突き上げている人間が多いなか、造園女は元気よく両手を空高く突き上げている。俺の姿は見えない。後ろの方で周囲に紛れて軽く片手を上げている、はずだ。集合写真のど真ん中で人目を気にしない女と、そもそも集合写真に映らないような男。そういう根本的な違いなのだ、と頭の中で捏ねくり回す。
帰る。送迎の車が近場のバス停まで送ってくれるらしい。一本煙草を吸ってから入口付近へと向かうと造園女がいる。顔を覗き込み「ありがとうございました。」と声をかけると「ありがとうございました。」と返ってくる。
送迎バスに乗り込む。後部座席に6人も乗るからギュウギュウ詰めで、窓は開けられないし、運転は荒いわで、気持ち悪くなる。ゲーが出そうな胸の気持ち悪さを抱えたまま、16時5分富士見温泉発バス、前橋駅16時35分着、元野球部現経済学部の男と一緒だ、電車に乗り換えて、前橋駅16時52分発、なぜ付いてくるのだ、さっき無理やり「お疲れ様です」と突き放したつもりなのに、高崎駅17時9分着、乗り換えて、彼は高崎で新幹線に乗った、私は鈍行である、大宮駅18時45分着、乗り換えて、南浦和駅19時5分着、人が多くて気持ち悪さに拍車がかかる、乗り換えて、1日で接する人間の摂取量が超えている、西国分寺駅19時39分着、乗り換えて、ボランティアセミナーに行ってより人間が嫌いになることなんて、立川駅19時56分着、あるのだろうか、乗り換えて、頭が痛い、東青梅駅20時25分着、気持ちが悪い。人間のことがより嫌いになった気がする。
帰る。日記を途中まで書いて、マスかいて、寝た。

2023年5月27日(土)

4時半起床。東青梅駅5時3分発〜拝島駅高麗川駅5時57分着、下車。5分歩いてローソンに寄る。金をおろしてサンドウィッチと牛乳、コンタクトレンズ洗浄液一式、歯ブラシセットを買う。
高麗川駅6時33分発、車内でサンドウィッチと牛乳を食べる。乗客は少なくのどかである。田園風景。田んぼに張られた水に風景は反射する。寝不足なので寝る。高崎駅7時57分着、寝起きのフラフラした身体を引きずり乗り換え前橋駅8時21分着、下車。
北口6番バス乗り場「国立赤城青少年交流の家」行きに乗る。ドストエフスキー罪と罰(上)」を読む。p148まで進む。ラスコーリニコフが婆を殺すための理論がオレオレ詐欺が受け子の若者を鼓舞し搾取するために掲げる理論と似ており面白く感じる。風景が気になる。標高があがる。耳が抜ける。
終点に停まる。坂を上がり国立赤城青少年交流の家9時13分着。
1階入口付近に佇むお兄さんから「ボランティア養成セミナーの参加者ですか?」と問われ「はいそうです。」と答える。案内を受け、2階にあがり、「1研」という部屋を目指す。4,300円の参加費と350円のボランティア活動保険加入料を支払う。指定された席に座る。
大学の小さい講義室のような部屋である。長机を2人が使用する。30人ほどの参加者。席は概ね埋まっている。私の隣は空いている。長机の上には資料一式が置いてある。
教室正面にはスクリーンが垂れ下がり、映像が流れている。「施設の使い方」。厳密に時間割が設定されている。
好き好んでこんなところに来たのではない。6月から始める労働、その職場、社長からの要請で来たのである。今日明日、泊りがけでボランティアの研修を受ける。新潟のホテルで子供たちに向けて野外体験などを行うイベント業務が今夏あるため、研修と資格取得のために来たのである。
オリエンテーションが始まる。近場の参加者たちと自己紹介する。「15歳です。僕は子供たちに自然体験の素晴らしさを教えたくて来ました!」「17歳です。ボランティアをやってみたくて来ました!」「20歳です。教員になろうと思っていまして…!」
彼らの心を反映したであろう清純な言葉をヤニの切れた頭と無精髭面で聞く。
「来月からイベント会社に勤めるんですけど、そこで子供たちと関わるので、その仕事のために勉強しに来ました。」特にボランティアとかには興味ありませんし、子供も好きでも嫌いでもないし、なんなら他者とのコミュニケーションは極力避けて生きていきたいです、とかは当然言わない。
その後、屋外でアイスブレイク、というものを行う。アイスブレイクとは

初対面の人との会議、商談の場など、緊張感のある場を和ませるためのコミュニケーション方法のことである。

と検索すると出てくる。30人ほどが広場に集まり、適当な人間とジャンケンをしてグーとパーが出たら、座り込んで自己紹介をするという餃子ジャンケン。ジェスチャーのみで誕生日を確認しあい、1月から12月まで順番に円になるゲーム。ピンポンパンゲームをやり、2回負けた人はネガティブ自己紹介をしようというコーナー。そつなくこなした、つもり。
その後は教室に戻り、講義を受ける。教育学を専門とする大学の教員が講義を行う。スマホが普及した現代の子供。体験が足りません。体験を作りましょう。学校外での活動も教育です。禁止事項が書かれた公園。ボール遊びやバットを使えません。体験する環境は大人が整備しなければならない時代。体験をお金を払ってさせる現代。体験の土台が商業化しています。経済格差が体験格差を生み出します。
昼飯は美味い。腹が減っていたからか。クレープが薄い。
講義を受ける。
volunteerは志願兵という意味です。ボランティアの4要素:自発性 無償性 利他性/公共性 先駆性です。役所や企業ができない自由度がボランティアにはあります。
カレー作り体験。
4人1組のグループになって

日記を書いていたら23時の消灯の時間になってしまった。色々なことがありすぎて書ききれない。もう寝たいし要点を纏めよう。volunteerの元々の意味は志願兵らしい。ボランティアに感じる嫌らしさが凝縮されている。俺は例えるなら傭兵である。その方がまだマシだと思う。自発性はなく、有償であり、利己的で、剽窃が得意である。高校生、大学生に囲まれている。単位のためにボランティアを利用する者。自己実現のためにボランティアに縋る者。可愛い女と喋って丹田付近が熱くなる。規則正しくバカみたいに生きているとそれだけで性の悦びを感じる。カレー作りにおいて燃え盛る火を見て落ち着く。生活棟、泊まる部屋にはベッドが4つ並んでいるだけ、廊下は長く精神病棟のようだ。このような健康な早寝早起き推奨、健康的なメシが提供され、社会的に良しとされる利他的で無償な、自己実現、のそれ、の、活動を求められる、ような、場所、にいる、と無性にSEXがしたくなる。
相部屋なので流石にマスターベーションは出来ないし、今は自涜ではなく他涜をしたいそんなマランティア精神なので、丹田付近を熱く燃やしたまま寝る。